5年前フランスに行ったとき、慣れない地下鉄・バスを何回も乗り換えて必死の思いでロンシャン競馬場に行った。
ちょうど、G1「ガネー賞」の日に当たり、遠征中の武豊騎手もそのレースに騎乗した。
意味不明の記号しか記載されていない競馬新聞を買い、これまたたどたどしく窓口で武さんを中心に投票したが、全部外れたっけ。
フランスでは、街のいたるところ、カフェでも新聞販売所でも馬券投票ができるので、G1といえども、当地ロンシャンまでは、足を運ぶ人は少ないらしく、この日もゆったりと観戦できた。
しかし日本と一番違うところは、いくら観客が少ないとはいえ、それなりの数の入場者が、競走馬の近くでは、絶対大きい声を出さなかったことである。
これからはじまろうというレース前にもかかわらず、競馬場全体がシーンと静まり返っているのには本当にびっくり!
周囲に日本人は見当たらず、日本では、これほど間近で見られることのないパドックで武さんの勇姿に私も静かに静か-に興奮した。
武さんもパドックの中からおそらく日本人とわかってチラッとこちらに目を交わしてくれた(気がする)。
馬は、本来臆病な動物なんで、人間のちょっとした大きな声でもパニックに陥ることだってありうる。
競走馬のことを思ってみな大人だなーとあらためて感心させられた次第。
これぞ競馬の歴史の長さから培われるものなのか、騎士道にも通じるものなのか、欧州文化の香りをゾクゾクして満喫した。
できるだけ近くで馬の状態を見てもらうために、観客との信頼関係があってはじめて、こういうパドックの構造が可能なんだろうけど、今回の日本人ツアーのマナーの悪さは、こっちでテレビを見ていてもハラハラした。
多分、ディープインパクトに手を伸ばせば触れるくらいの至近距離で大興奮だったのだと思うが、武さんもしきりにディープの上から静かにして欲しいとポーズしていたのが、ちょっと可哀想だった。
はるばる応援に来てくれている日本人団体に、これほど神経を尖らせないといけなかったことをある程度予想はしていたと思うが、その数が半端ではなかったのでは。
ディープもいつもと勝手が違い、大歓声を上げる日本人がすぐ目の前にいるにしてはよく我慢していたように思うが、見えないストレスは、人馬ともに絶対あったのではないか。
その場にいた、現地の観客も普段と違って騒々しいのを遠巻きに見て、辟易していたのではないかと思う。
そうなるとディープを勝たせてなるものかという雰囲気も出てくるだろうし、やっぱりこういったところからもうレース前からディープは負担重量を59.5kg以上+α背負わされてレースをしなくてはならなかったのが残念でしょうがない。
新聞報道とは違う意味での斤量差に泣いたディープ!
それでもあそこまで頑張ったディープと彼の気持ちを落ち着かせていた武さん・厩務員の方に、拍手を送りたい。
レースを終えて、憮然と控え室に帰っていく武さんの気持ちがなんとなくわかる気がした。
NHK解説の岡部さんも本当はこのことをもっとストレートに言いたかったはず。
紙一重の差で決着するのが近代競馬である以上、まだまだ、日本競馬の悲願は、先が遠いのではないか。
by マスター